岩崎恵一「明るい開き直りのすすめ」

明るい開き直りのすすめ

明るい開き直りのすすめ

この本は、タイトルの通り人生訓を狙いとしたものですが
実際の読みどころは、著者の破天荒な生き様です。
いわば「いつみても波瀾万丈」ですね。
14歳(!)でのアメリカ留学、アメリカ野球部での栄光と挫折、メキシコでの危険な賭博リーグなどなど
波瀾万丈でやろうと思ったら、2時間スペシャルにしないと収まりきらないこと請け合い。
高橋三千綱氏が執筆を進めるのもわかります。


特に印象に残ったのはディビットという知的障害者の下りです。
極度の過食症で、岩崎氏がアメリカでお世話になっていた家庭で一緒に住んでいたのですが
一見、ハートフルな話になりそうなところ、いやいや、現実はそんなに甘くないですね。
ディビットとのやり取りは読者の生ぬるい考えをぶち壊してくれることでしょう。


また、いじめに関する考え方も、現実を直視しているなあ、と思いますね。
命の大切さに訴えるのではなく、自殺者の意図を汲んだ上で、自殺は犬死だという主張には説得力があります。
極限まで追い詰められた人が自殺に走るか他殺に走るか、という問題は、本当に難しいところ。
秋葉原の無差別殺人の件もありますし、迂闊なことは言えないのですが
岩崎氏は、そういう追い詰められた人の心境を理解しているんだろうなと。


ただ、個人的には人生訓としてはどうなんだろうなあ、と言わざるをえません。
もちろん、ある種のマイノリティには届くと思いますが、自分にはちょっときつい。
もし、岩崎氏と同じ境遇に置かれたら、即効心が折れる自信がありますね。
開き直れと言われても、ちょっと・・・
岩崎氏は、例えるならば暴走機関車なんですよね。
さいころから石炭をガンガン投入してノンストップで驀進し続けてきたのでしょう。
そんな機関車が、もしちょっとした障害を目の当たりにしても
急ブレーキで止まるのは逆に危険で、突撃してしまった方がいいというのはその通りだと思います。
岩崎氏自身は執筆段階でも現在進行形で
目の前に深さも広さも分からない大きな水濠が立ち塞がっているようです。
もしかしたら、それは大海かもしれませんが、暴走機関車はそのまま突っ込んでいくことでしょう。


それに対して、一般人はいかに石炭を補給するか、という段階で苦しんでいるんだと思います。
そもそも機関車に乗らずに徒歩で歩いているのかもしれません。
いかに、その歩みを速めるのか、というヒントは、残念ながらこの本からは得られません。


そういう点では、岩崎氏の「お母さん」(なぜカッコ付きかは本を読んでください)のエピソードが
一番、一般人の心に響くかもしれません。
彼女は、当初、英語をろくに話せない岩崎氏が数学の問題をいとも容易くとくのを見て
「なんで、言葉もろくに話せない子がこんな難しい問題を解けるの?」
「この子にできるのなら私もできるはず!」
と、大いなる勘違いをしてしまったそうです。
そして、その勘違いが大学院修士課程終了という物凄い結果を生む原動力となるのですが
自分の親と比較して考えた場合、高校数学さえろくにできなかった年配の人が
勘違いを元に大学院まで行ってしまうというのは、想像以上のバイタリティだと思います。
開き直りよりも勘違い。自分を如何にだますか。
これがこの本から自分が得た教訓でしょうか。